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放火症(病的放火)

目次

衝動制御障害群/放火症(pyromania)の概要、臨床症状、診断、治療

衝動制御障害群とは、自分または他人に危害を与えるような行動を行う衝動や欲求に抵抗できないという自己制御の障害のグループです。急激に衝動的な行動をとってしまう精神疾患の一種で、多くの場合、薬物依存やアルコール依存症などの行動習慣がある人に見られる傾向があります。このグループから、次の4つの疾患を紹介します。

  1. 放火症(病的放火)
  2. 窃盗壁(病的窃盗)
  3. 間欠爆発症/間欠性爆発性障害
  4. 強迫的セックス症

これらの疾患は、神経学的または精神医学的な原因により、人々が自分の衝動や欲求を制御できなくなることで特徴づけられます。これらの疾患は、個人や家族、社会に深刻な影響を与える可能性がありますので、適切な評価と治療によって、これらの疾患を管理することが重要となります。

放火症の概要

放火症、または病的放火とは、個人が意図的に火をつけ、火災を引き起こす行動に対する強迫的な衝動を持っている精神障害のことです。この障害に苦しむ人々は、自分自身や他人に対して危険をもたらす可能性があります。

放火症の原因はまだ完全には解明されていませんが、精神医学的には、他の強迫性障害と同様に、脳内化学物質の不均衡、神経伝達物質の異常、または遺伝的な要因などが考えられています。また、ストレス、不安、うつ病などの精神的な問題も、放火症を引き起こす要因となることがあります。

放火症を治療するには、通常、心理療法と薬物療法の組み合わせが用いられます。心理療法では、個人が自分の強迫的な衝動について理解し、制御する方法を学ぶことができます。薬物療法では、うつ病や不安障害などの精神的な状態を改善するために、抗うつ薬や抗不安薬などが使用されます。

放火症の臨床症状

「放火症(放火癖)」は、この衝動制御障害群の中でも、火をつけることに異常な衝動を抱いてしまうことを指します。放火症を持つ人は、火をつけることが非常に興奮を引き起こし、その行為自体が快感をもたらしています。

放火症の人々は、火をつけることによって自分自身や他人に損害や危害を加えるため、社会的に問題が大いにあります。放火症は、若年層に多く見られ、特に男性に発症することが多いとされています。

放火症の臨床症状は、次のようなものが挙げられます。

  • 強迫的な衝動
    放火症の最も一般的な症状は、火をつけたくなる強迫的な衝動です。この衝動は、様々なものに触発されることがあります。例えば、ストレス、不安、孤独感、うつ病、またはトラウマなどです。
  • 火災を引き起こす行動
    放火症の個人は、意図的に火をつけ、火災を引き起こします。火災の種類は、場合によって異なりますが、一般的に小さな火災から、大規模な火災まで様々です。
  • 火災による興奮
    放火症の個人は、火災を引き起こした後に、興奮しています。火災の状況に魅了され観察し、火災が拡大する様子を群衆の中から見て、充足感や開放感などの快感を得ています。
  • 焦燥感や不安
    放火症の個人は、火災を引き起こす前に、焦燥感や不安を感じていて興奮しています。火災を起こさなければならないという強迫観念に取りつかれ、落ち着かなくなります。
  • 犯罪意識の欠如
    放火症の個人は、火災を引き起こすことが犯罪であることを理解していても、犯罪意識が欠如しています。自分が犯罪を犯していることに気づいていないことさえあるくらいです。
  • 火災をイメージ
    行為には、消防車や消火設備などの火災をイメージさせるものや消防隊を呼ぶという行為への執着が認められることもあります。

これらの症状は、放火症の診断のために重要な要素となります。もし放火症を疑う症状がある場合は、専門家に相談することをお勧めします。

放火症の架空ケース例

  • ケース1
    高校生のAは、毎日のようにいじめに遭っていた。ある日、Aは放火してしまった。それ以降、Aは放火による興奮を求めるようになり、何度も犯行に及んだ。Aの心の中では、放火が自分を救ってくれる唯一の手段であった。しかし、犯罪者としての自覚はあったため、常に罪悪感に苛まれていた。
  • ケース2
    Bは、幼少期に性的虐待を受けた経験があり、心に深い傷を負っていた。Bは、放火によって自分の苦しみを癒そうとしていた。犯行の度に、Bは自分自身の力で問題を解決しようとしていた。しかし、放火の繰り返しによって、Bは社会的に孤立するようになり、さらに心の傷が深まっていった。最終的に、Bは犯罪者として逮捕され、心のケアを受けることになった。
  • ケース3
    ある男性Aは、仕事が忙しくストレスがたまっていた。対人関係にも悩んでおり、孤独感に苦しんでいた。ある日、Aは偶然通りかかった公園で、焚き火をしている家族連れを見かけた。家族の和やかな雰囲気に触れ、心が和らいだ。しかし、その夜、Aは自分の部屋で異常な興奮を覚え、ついには隣人の家に火をつけてしまった。後にAは、焚き火の光や家族の笑い声が頭から離れず、焚き火をしている家族を思い浮かべると強い衝動に駆られたことを語った。Aは放火後に逮捕され、精神科医によって放火症の診断を受けた。

この例は、ストレスや孤独感、また他者との関わりに問題を抱えていたことが、放火行為につながった可能性があることを示しています。また、焚き火を見たことが放火行為に影響を与えたことも示唆されます。このように、放火症は過去の体験や心理的要因によって引き起こされる可能性があり、単に犯罪行為として処理するだけではなく、根本的な問題に向き合うことが重要とされています。

  • ケース4
    主人公のAさんは、放火症の症状に苦しんでいる。Aさんは幼少期に虐待を受け、それがトラウマとなっている。ある夜、Aさんは昔住んでいた家を見に行き、幼少期の記憶がよみがえり、怒りがこみ上げてきた。その怒りに支配され、Aさんは家に火をつけてしまった。
  • ケース5
    主人公のBさんは、放火症の症状に苦しんでいる。Bさんは、家に引きこもりがちで、社会とのつながりが希薄である。ある日、Bさんは街中を歩いていると、目の前で車が爆発し、火災が発生した。その光景を見たBさんは、興奮状態になり、火に魅了されるような感覚を覚えた。以来、Bさんは放火行為に手を染めるようになってしまった。

【ケース4の解説】 Aさんは、幼少期に受けたトラウマが引き金となって放火行為を行ってしまったと考えられます。Aさんは、虐待によって抱えた強い感情をコントロールできず、怒りがこみ上げるとともに、それに支配された結果として放火を起こしてしまいました。このような放火症のケースでは、トラウマや精神的ストレスが引き金となって、放火衝動が生じることがあります。

【ケース5の解説】
Bさんは、社会的孤立や寂しさから、放火行為に手を染めるようになったと考えられます。Bさんは、自分自身の存在感を示すために、周囲に危険をもたらすような行為に手を染めることで、自分が社会に存在していることを実感しようとしたのかもしれません。このような放火症のケースでは、社会的な問題や孤立感が放火行為につながることがあります。

ICD-11の診断基準

ICD-11(国際疾患分類第11版)には、放火症の診断基準があります。放火症は、「行動性および身体表現性障害」の範疇に分類されており、次のような診断基準となります。

  1. 強迫的な火をつけたいという衝動や、火をつけることに対する過度な執着を持つ。
  2. 過去に火災を引き起こしたことがあるか、または火災を引き起こすために故意に火をつけたことがある。
  3. 火をつける行動が、自分や他人に害を与える可能性があることを理解しているが、それでも火をつけたいという衝動に抵抗できない。
  4. 火をつける行動が、他の障害の症状によるものではないことを示唆する。

以上の基準が満たされる場合、放火症の診断がつけられます。ただし、この診断は専門家による詳細な精神的評価を必要とするため、自己診断や他人の診断に基づく診断は避けるべきです。

放火症の疫学

放火症の正確な発生率は不明ですが、一般的には非常に稀な症状であるとされています。しかしながら、放火症は非常に深刻な症状であり、火災やその他の深刻な身体的・心理的な被害を引き起こす可能性があるため、重要な問題です。

放火症の発生率についての調査は限られていますが、研究によると、放火症の患者は通常、若年層に多く、女性より男性に多いとされていて、8:1です。また、放火症を引き起こす可能性の高い要因としては、ストレス、精神疾患、薬物乱用などが挙げられています。

しかしながら、放火症の疫学に関する研究は限られているため、より包括的な研究が必要とされています。

放火症の病因や病態

火症の病因や病態については、まだ完全に解明されているわけではありませんが、多くの研究が行われています。次に、一般的な考え方を紹介します。

放火症の病因には、遺伝的、環境的、および心理的要因が関与している可能性があります。たとえば、精神疾患や薬物乱用などの心理的な問題が放火症のリスクを高めていることも疑われます。また、過去に火災を経験したことがある、家族や友人が火災に遭遇したことがある、あるいは社会的孤立やストレス、不安、うつ病などの経験がある場合に、放火症のリスクが高まると考えられています。

病態については、放火症患者は通常、強迫性障害、知的能力障害、うつ病、アルコール乱用、薬物乱用、反社会性または境界性パーソナリティ障害、双極性障害などの他の精神疾患を併発していることが多いとされています。また、小児期の病的放火は注意欠如・多動性や学習障害と関連しています。女性の場合は病的窃盗と合併しやすいことが知られています。これらの病態が放火症の原因となっている場合があると考えられています。

一方で、放火症の病因や病態については、まだ十分に解明されていないため、これらの問題については、今後の研究が必要です。

放火症の経過や予後

放火症の経過や予後は、症状の重症度や治療の適否、患者の個人的な状況などによって異なるため、一概に言えません。しかし、放火症は深刻な症状であり、治療が必要です。

治療は、心理療法、薬物療法、社会的サポート、火災リスク管理などです。心理療法は、認知行動療法、行動療法、精神分析療法などが一般的に用いられます。薬物療法は、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬などが使用されることがあります。

放火症の予後は、患者が治療に積極的に参加し、治療に適切に反応することによって改善することができます。しかし、患者が治療を受けない場合、または治療が不十分な場合、放火症は再発する可能性があります。

放火症の治療には、専門的なアプローチが必要であり、患者と家族が支援されることが重要です。

エリアス・アブジャウデとロリン・M・コーラン編集「衝動調節障害」2010年/ケンブリッジ大学出版局

「衝動調節障害:行動依存症の理解と治療のための臨床医のガイド」、ジョンE.グラントとマークN.ポテンザ2018年/W.W.ノートン&カンパニー

Eric HollanderとDan J. Steinが編集「Handbook of Impulsive and Compulsive Disorder」2010年/John Wiley & Sons

ハーヴェイ・B・ミルクマンとケネス・W・ワンバーグが編集「衝動調節障害」2007年/アメリカ心理学会

ナンシーM.ペトリーが編集「行動中毒:DSM-5以降」2016年/オックスフォード大学出版局

ブライアン・P・マコーミック著、2009年/ProQuest「行動の知覚と調節に対する実行機能と動機づけの自己規律の相乗的貢献の神経心理学」

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